誰も手が付けられない荒くれ高校生がいた。殺人以外の悪い事なら全て経験した様な。
彼には唯一の肉親が母親しかいない。父は物心つく前にいなくなっていた。
その母は不治の病に侵されていて余命幾ばくもない。
何かをしてやりたいと本が好きな母のためにずっと読みたがっていた絶版になっている本を探し始める。
古い本のためかどこの本屋を探しても見つからない。
日に日に弱っていく母。もう時間は残されていない。
今日もあてもなく街を歩き回る。
その視界には見覚えのない古書店。僅かな希望を抱いて店頭に並ぶ書籍を見るとそこには母が探していた本が。
いつもの様に無断で持ち去る事もできた。しかし、母に送る最初で最後かもしれない贈り物。盗んだものなんてきっと喜ばない。
きちんと本を持ってレジに行くとその本は売り物ではないと云われる。
事情を説明して何とか譲ってくれないかと頼み込むと条件を提示される。
値段の付けられない大切な本だから、悪い奴には譲れない。でも母親に何かしてやりたい気持ちは本当だろうから、今みたいにちゃんと考えて、悪い事はもうしないと。
それを聞いた少年は判ったと何度も頷いて感謝しながら包装された本を胸に抱いて古書店を後にする。
少年が去った本屋で煙草の煙をくゆらせる古書店の店主。
「何度この日を繰り返しても、俺は変わらない、か」
と、云う夢を見たんだ。