とある女性と男性は恋仲だった。しかし、その男性は気が多く、女性はいつも不安定だった。
場所は、よくあるホテルの一室。だが、その空間は女性の心の歪みを反映するかの如く、廃墟と化していく。
付き合いの長さと反比例して減っていく逢瀬の回数。この前会ったのはいつだったか。思い出せない。否、今日会っているのは自分ではない。顔も名前も知らない別の女だ。
どうして。どうして私だけでは駄目なのか。私にはあなただけだと云うのに。
募る愛慕。比例する狂気的な独占欲。
殺したい。あなたを。私だけのものになって。死体になったあなたでも愛する自信がある。
許せない、許せない。でも愛してる。私を裏切るあなたでも、愛してる。
男性の下で喘いでいる女。憎い。そこは私の場所なのに。どうして、今夜あなたがそこにいるの。
すべてが憎い。憎い、憎い、憎い!
死んでしまえ!
念じた瞬間、女の首がゆっくりと回り出す。梟のようにぐるぐる、ぐるぐると。
異常な状態に、能面のような女の顔が現実味を感じさせない。
ぶちぶち、ぶち、と鈍く重たい音とともに夥しい量の血液が男性の全身を赤く染め上げた。
汚い。死んでまであの人を汚すなんて汚らわしい。
恐怖に凍りついたあなたの表情。堪らない。
おかしい。さっきまで知らない女の顔をしていた首。
いつの間にか、私とそっくりな顔をしていた。
あれは、私?
私が、私を殺したの?
私は誰、あの首は誰のもの?
あなたはどこ?
ここはどこ?
淀んだ空気と闇に包まれた廃墟と化した一室には、人の気配を感じない。
ただ、ひとりの女の身体と、首だけが血の海に沈んでいるだけ。
と云う、夢を見たんだ。