子供達と大人達。

 彼女は、所謂ぶりっ子だった。
 しかし、自覚はない。
 彼女は、自分が可愛いとは思っていなかった。
 しかし、周りはそう思わなかった。
 矛盾が彼女の命を救う。

 大人と子供が対立してから、1週間ほどの時間が過ぎた頃。
 学校は学ぶ場所ではなく、学生達の反政府活動の拠点と化していた。
 生活に不自由はない。
 この活動を始めるにあたり、生活に必要な物は全て、各自が自宅から持ち寄っていた。

 学校の外では大人達が毎日飽きもせず活動の休止をさせようと詰め掛けて、説得の言葉を延々と投げるが子供達には届かない。
むしろ、今日は何台のテレビカメラが来ていたとか、そちらが子供達には重要だ。
 子供達は大人達の批判や同意や興味等、関心が増えて行く事がこの戦いの勝敗の基準と決めていた。
 そして、子供達が立て籠りだけでは話題性に欠けるのでは、と思い始めた頃に、事件は起きた。
 1人の少年が、冒頭の少女を人質にした。
 ここまでの犯罪行為を考えてもみなかった子供達は慌てた。
 警察、そう子供達の誰かが云えば、大人に頼ってどうするんだよ、とまた誰かが答える。
 少女は考える。少年は家庭科室から持って来たであろう一般的な大きさの包丁を首に当てている。下手に動いたら、刺されるかもしれない。でも、怖くて震えが止まらない。歯がかちかちとぶつかって音を立てるほどに。
 助けて、と。声を出してもきっと私の事なんてどうでも良いに違いない。第一恥ずかしい。でも怖い。少女の大きな瞳には涙が浮かぶ。そして、丸で漫画の登場人物くらいしか出さない様な声を上げながら嗚咽を零す。
 その少女の行動に周りの子供達も、勿論拘束している少年も焦る。
どうしたの、と少年が聞けばお家でたまちゃんが寂しがっていると思ったら、と本人でさえ疑問を抱いた理由。
意味が判らない理由ながらも同情的な感情に到った少年はたまちゃんを連れておいでと少女を解放した。
ありがとうきらんっ、と自分で謎の効果音を出して教室を出て行った少女。
恐怖のためか普通に昇降口からは出ず、1階の廊下の窓から外に出ると、立て籠ってから初めて子供が出てきた事に大人達はどよめいた。
 レポーターは駆け寄ってきてマイクを向けられるが、大人達は早口で何を云っているのか判らない上に、テレビカメラが近くにある事に気付いて慌てて大人達の群れから逃げ出す。
公共の電波に私なんかが映ったなんて、と少女は久しぶりの我が家に向かいながらまた不自然な溜め息を吐く。
 歩いて行くと不自然な事に気付いた。少女の家の前に警察官の制服を着た大人達が居た。
これではたまちゃんを迎えに行けない、と少女はその場でぐるぐると回り、困ったと表現する。
 ぐるぐる回っているといつの間にか森の中に少女は居た。
 足下には猫。たまちゃん、と少女は猫を抱えた。
 その瞬間、耳を劈く様な爆発音が響く。火柱が上がり、森が燃えて行く。
少女は猫を抱えてあうあう、とこんな時でも不思議な効果音を出して走り回る。
走っていると少女の前には学校に一緒に立て籠っていたはずの子供達が居て、少女が出て行った後から警察が突入してきて、少女を拘束した少年が包丁を持っていた事から話が大きくなってしまったと云う事だった。
 この森の中に追い込まれて、でも引き下がれなくて。
衝撃的だった事が、あの少年が少女を拘束した理由は特に無くて、既にこの戦いに子供達は疲れて可笑しくなってきていた。
気付いた時には遅くて、何人かの生徒は警察官と争って鋏やカッターで切りつけたらしい。
 今思えば何故こんな事を、始めたのか。
 今思えばそんなに不満なんて無かった。
 子供達は後悔する。大人達を怒らせるとはこう云う事なのだ。
 誰一人何も云えず、何も出来ず炎の中でただ蹲っている事しか出来なかった。
 無力な、胎児の様に。

と云う、夢を見たんだ。