目が覚めた時、機嫌は最悪の状態だった。
何故かと云うと添い寝をしてもらっていた携帯電話が耳許で煩く鳴り響くからだ。
今日は休日。なので、目覚ましをかけていない。勿論、この音は目覚めを促す物ではない。
では、一体何?
携帯電話を開いて、電話をかけて来ている人物の名前を見る。
知っている様な、知らない様な。
寝惚けた思考で一応この穏やかな眠りを妨げた相手の声でも聞いておこうと通話を開始する。
が、耳に当てる前から甲高い声は捲し立てて来た。
早送りの声を聞いている感覚で、脳も目覚め切っていない中必死に聞き取りまとめた事は以下である。
・電話の相手とは仲が良い方らしい。
・電話の相手はいつも待たされているそうだ。(なら、約束しなければ良いのに)
・今日は何故かゲームセンターで遊ぶ約束をしていたらしい。(そんな趣味、あったのか?)
・今から30分以内に来いと云う。
・場所は電車で40分かかる。(既に不可能である)
が、無理だと伝える前に話し方同様、通話が切れるのもまた早かった。
私は律儀に温かな寝床から抜け出して無理だと指定されたゲームセンターまで行く事にした。
私は出掛けられるまでの準備をする事に最低1時間はかかる女であるが、今日は仲が良いらしい友人との約束を忘れてしまった引け目からか10分と云う驚異的な記録を叩き出して、駅へ向かって自転車を走らせた。
電車に乗り、窓に映る自分を見て嘆く。ああ、つけまを忘れた、と。カラコンが無ければとても見られた顔ではない。今は関係ないけれど、つけまを開発してくれた偉い人、愛してる。
出来る限り窓に映る自分を見ない様に携帯電話の画面に目を向けて適当にネットを観覧する。ああ、日本は相変わらず平和で良いねえ。
そしてあっという間の40分を相棒のお陰で過ごして約束のゲームセンターに急いだ。
店内に入って、やはり思う。私はどう考えてもこんな喧しいところで遊ぶ約束なんてしない、と。
機械が出す爆音と人の話し声に耳を塞いで店内を歩き回って今更気付く。
私は電話の相手の顔を知らない。慌てて携帯電話を取り出して履歴を見るが、おかしな事に着信履歴が残っていない。寝惚けていたせいで操作を間違えて消してしまったのか、そもそもあの会話自体が夢だったのか、判らない。
何が楽しくて折角の休日にこんなところにいるのか。待っている人間がいないと判ると一気にどうでも良くなってしまい、店から出ようとしたところ、好きなキャラクターのぬいぐるみがゲーム機の中にたくさん詰め込まれているのを見て足が止まる。きっとさっきは人探しに夢中で気がつかなかったのだ。
何もせずに帰るのも申し訳なく思ったので試しに遊んでみると驚くほど簡単に望んだぬいぐるみは手に入った。
更に周りを見ると他にもぬいぐるみを扱っているゲーム機があって片っ端から易々と人形を取って回った。
店を出る頃には店員からもらった袋一杯にぬいぐるみを取っていて、案外ゲームセンターは楽しいところだと思い直して、思いの外良い休日になったと家に帰って行った。
と云う、夢を見たんだ。