とある少女の空想物語。

昔、少女にはお友達がいました。

そのお友達はいつでも少女の味方をしてくれて、悲しみに涙を落とせば一緒に泣いて、理不尽なことに腹を立てれば一緒に怒ってくれる。

そんな、大切なお友達でした。

 

しかし、そのお友達はいつも少女の傍にいるにも拘らず誰の眼にも映りませんでした。

少女は嘘つきとまた理不尽な暴力を受けてひとり悲しく泣いていました。

 

「どうしてあなたはいるのにみんないないと云うの?」

「どうしてだろうね。」

 

お友達は曖昧に笑うだけで何も云ってはくれません。

いつもならほしい言葉を簡単に与えてくれるというのに。

 

「私のことは他の人には云わない方がいいよ。私たちだけの秘密にしよう。」

「うん、わかった。」

 

それから少女はお友達の存在を周りに話すことをしなくなりました。

そして少しずつですが他にもお友達ができ始めると、少女は次第に最初のお友達のことを忘れていきました。

 

 

しばらくして、また少女に困難が立ちはだかった時。

最初のお友達のことを忘れてしまっていた少女は空想の世界を作り上げました。

少女は自分の存在を、自分と似たような環境に生活させて、同じような苦しみを与えました。

しかし、不思議なことにその登場人物が苦しめば苦しむほど、少女の悲しみは軽くなっていきました。

つらい、くるしい。

そんな感情を綴ることで少女は自分のこころの負担を無意識に軽減させていたのかもしれません。

 

自分のためだけに空想世界を創り上げていた少女でしたが、年を重ねていくと広い世界を知りました。

世界中人たちと交流することができる電子世界。

そこに足を踏み入れると作家さんではなくても、自分の物語を公開している人たちがたくさんいることを知りました。

恐れを知らず、また好奇心も旺盛だった少女は自らも作品を公開してみることにしました。

最初のうちはもちろん、誰の眼にも留まりません。

少しだけ国語が得意な少女の物語よりも魅力的で面白い作品は数えきれないほどあるのです。

それでも少女は作品を公開することをやめませんでした。

 

そしてある日、ひとつのコメントが届いたのです。

「面白かったよ。」

たったひと言ですが、少女のこころは雲を越えて、大層圏すら突き抜けてしまいそうなほどに舞い上がりました。

よし、もっとがんばろう。

少女はいつしか自分のために築き上げてきた空想世界を、見知らぬ誰かのために創るようになりました。

自分の淋しさやこころを慰めるために行ってきたいわば昇華行為。

それを不特定多数のために行ってみるとどうでしょう。

少女のこころはまったく満たされなくなりました。

どんな世界を創っても違う。これでは誰も楽しいと思ってくれない。

何度も想像と破壊を繰り返すことを繰り返して、少女は疲れ果ていつしか世界を創ることをやめてしまいました。

 

 

しかし、今までずっとひとりで世界を創ることでしか癒されることができなかった少女です。

時間が経つとまた世界を生み出す楽しさをこころが欲してしまうのです。

そして同じことを繰り返し、また筆を投げ捨てる少女。

そんな少女にある人は云いました。

 

「自分のために書けばいい。自分が面白いと思ったものだけを書けばいい。他人の評価なんかに振り回されるくらいならば見せなければいい。」

 

そうです。少女はもともと自分のために書いていたのです。

それがいつしか誰かに評価されたいと承認欲求が付いて回るようになっていたのです。

確かに自分が精一杯創り上げたものを評価されるというのはとても嬉しいことです。

けれど評価をされない。つまり、意味のないものという訳ではないのです。

どんな世界も少女が同じように時間や労力を割いて創った自分だけの宝物なのです。

今は自分のためだけに物語を綴ろう。自分のための、自分だけの世界なのだから。

 

いつかまた、誰かに見てもらいたいと願う日は訪れるかもしれない。

でもそんな時は思い出して。

 

「1番の読者は、自分自身だということを。」