「死ねよ、ほら。さっさと死んでみせろよ」
黙れ。何もできないくせに勝手に脳内を掻き回すな。寄生虫の分際で。
「俺が寄生虫なら、お前は何だ。愛玩動物、ましてや家畜の価値すらないくせに」
黙れ。殺せるものなら殺してみろ。わたしは今死ぬわけにはいかないんだ。
「そう云いながらお前は今何をしている? 中途半端に血を流して赦されたつもりになっているんだろう」
黙れ。お前に何がわかる? ただ脳内で好きなように喚いているだけのお前に望まれずにただ生かされ続ける気持ちがわかるのか?
この国は自殺することが難しい。否、わたしの勝手な価値観やら躊躇いも含まれているのだろう。
この場所で死んだら後始末をしていただかなくてはならない。
帰る場所のないわたしには当然死後の世話をしてくれる人間もいない。
生きていることだけで周りに迷惑をかけるというのに、死に際まで誰かの手を煩わせたくない。
そう思考する余裕のあるわたしは、今はまだ本気で死を考える時期ではないのだろう。
ああそうだ。中途半端に申し訳程度の傷を作り、申し訳程度の過剰服薬をして赦された気になっているのだろう。
それ以外に死の誘惑を追い払う術をわたしは知らない。
生と死は隣り合わせだとはよく云ったもので、死に近づく素振りをして日々を騙し騙し消化する。
死の淵を垣間見ればなぜか生への衝動が湧いてくる。
ここで死ぬわけにはいかない。誰にも迷惑をかけないように。誰のこころにも残らないように。
つまり身辺整理を終えるまでは最近効果を感じられなくなってきた安定剤で脳を鈍らせ、生き続けるしかない。
お前は何だ。その問いにはこう答えよう。
わたしは家畜以下の有害な二酸化炭素を吐き出すだけの生物だ。
だけれど、この国はそんなどうしようもない生物を粛清してくれる法がないのだ。
中途半端な自由と、安寧と。
ささやかな義務と、拘束と。
監視のための番号を割り振られて世間に放たれている、人間の紛い物だ。
さあ、今宵も0と0を掛け合わせて、
穢を騙り明かそうか。