彼女と何でも屋。

 人を殺す為にはどれ程の力が必要なのか。純粋に興味がある。
前回は失敗に終わってしまったが次こそは。と、今朝郵便受けから取り出した広告を片手に電話をかけてみた。
 電話の相手は何でも屋らしい。
 「お電話有難うございます、何でも屋です」
 本当に何でも屋だと名乗ったと僅かに驚きつつ言葉を返す。
 「恐れ入ります、そちら様の広告を拝見してお電話したのですが、本当に何でもして戴けるのでしょうか?」
 「はい、勿論です。お掃除に犬の散歩にお引越しのお手伝いまで何なりとお申し付け下さい」
 違う。私が頼みたい事はそんな事ではない。カレンダーに視線を移すとそう云えば今は三月で人間が住処を変える季節だと思い出す。
 「そうですか、私の実験の協力をして戴きたいのですがお願い出来ますでしょうか?」
 「実験ですか……それは特殊な免許が必要な内容ですか?」
 何でも屋は先程までの軽い調子を改めて慎重に依頼の内容を聞き出そうとする。
何て難しい事は無い。酷く内容は単純明快。
 「いいえ、特別な資格なんて必要ございません。子供にだって出来る内容かと」
 「そうですか、ちなみに大まかに内容をお窺いしても宜しいですか?」
 「私を殺して欲しいだけです」
 「え」
 「刺殺でも絞殺でも結構。ただ、その感触や気分。何でも結構です。感じた事を逐一報告しながら殺して戴ければ」
 電話の向こうは沈黙していた。
 そして、静かに通話は切れて。
 通信が切断される音が肉を破る音の様に聞こえて、思わず口許が笑みを形作る。
何でもしてくれると云ったのに。
 それとも私は、頼む相手を間違えたのかしら。