人が人を殺す事に、どれ位の力が必要なのか、純粋に気になった。
定番は絞殺と刺殺、どちらだろうか。
考えてみても世の中に興味が持てないわたしは判らない。
何となく、刺殺と云う事にしておこう。是は紛れも無いわたしの主観。
どちらだって構わない。疑問さえ解消されればわたしは満足なのだから。
刃物。
鋏はどうかしら。薄らと蚯蚓腫れが出来た。けれど、これで人を殺すには重労働過ぎる。
カッターナイフは。新品ならきっと切れたと思うけれど、これも少し薄皮が切れるだけで重傷を負わせられたら上出来な位。
剃刀は。これは新品のせいか切れ味が良い。血が流れる傷口が微弱な空気の流れを感じてすうすうと冷たく感じる。でも、結局はカッターナイフと同じと云うところ。
最後は、世間を知らないわたしでも凶器に利用されると知っている包丁。
本当はナイフとかの方が力も要らないかもしれないけれど、生憎外が嫌いなわたしはそんなナイフを利用する趣味が無いので持っていない。
引き出しから柄を握って取り出した包丁。まさか調理以外に使う日が来るとは思わなかった。
今までのどんな刃物より重たい。これは期待出来そう。
でも、何度往復させても血が流れる事は無かった。さっき剃刀で鮮やかな色を見たわたしはあれがないと納得出来ない。
そう云えば誰かが包丁で腹切りをしようとしたけれど、全く刃が刺さらなかったと云っていた。
世の殺人犯の方々は一体どんな力でこんなに鈍い痛みだけを与える刃物で人を殺すのか。
一向に変化が無く、飽きてしまった。一番期待していただけにこんな結果になろうとは興醒め。
包丁を流しに置いて、まだ剃刀に依る出血がある腕を眺める。
これでは到底事故で済まされてしまう、可愛い傷。
しかし、暫くすると包丁で削った皮膚が焼ける様に熱くなり、腫れ上がって来た。
派手さは無いが、少し痛い。これが本当に刺されば容易く人を殺せてしまうのだろう。
徒然に考えていた殺人の労力に関する思考を一時停止して冷蔵庫を開ける。冷気が傷を撫でて、血が凍りそうに冷たくなった。包丁傷には心地よかったが。
考えればお腹が空く。身体が動かない分脳がとんでもない栄養を吸っているとしか思えない。
材料を水で洗ってまな板の上に並べていく。そして、中断していた思考が急展開で結論へ急ぎ出した。
そうだ! 人は動物も殺して食べている。包丁で、毎日毎日切り刻まれている。
人間も動物だと云うのなら動物の肉を切り刻む力が人を殺せる力なのかもしれない。
こんなにも身近なところに答えがあったなんて。
実際試してみたらもっと実感を得られて、何かを超越した素敵な感覚を得られるのかもしれないけれど、それは無理なお話。
だって、わたしは菜食主義者だもの。