魔の血を持つ者として生まれた運命、それは必ず贄が必要となることである。純血種であれば捕食活動を行わないことは動物で表すとするならば息絶えること。実際は存在が消滅するだけでその亡き骸が残ることはない。故に、本能的にそれぞれの『食事』の形があり、生物と同様に本能として備わっているものなのである。
斯くしてそれは純血種ではないものの淫魔の血が半分流れている雨宮湊も該当するはずなのだけれど、彼は何に於いても特殊な個体であった。淫魔としての捕食活動は人間から精気を得ることである。アダムが知る淫魔という存在は夜な夜なその人間離れした魔性の姿を存分に活かして贄と決めた人間を眠らせて夢の中に侵入したり、現し世で決して人間と交わることでは得られないほどの快楽を与える代わりに精気を奪う魔の者であった。
しかし、湊は違う。必要最低限、淫魔として存在が危うくなるまでそんな素振りは見せずにアダムの髪の色から赤みが失われてきたら、共に義務的な『食事』を行う。吸血鬼であるアダムの場合は吸血行為が『食事』に該当するので、その髪を見ればどれほど彼が餓えているのか視覚的に判断が可能であるけれど、湊は普段から肌を曝すことを嫌っており、それ故に淫紋を見る時はその時だけなのである。
「湊、いいかい?」
「あ……、はい……」
未だに鋭い牙に恐れを抱いているのであろうかそれとも吸血の後に行う蜜事に怯えているのか小刻みに身を震わせながら生白く細い首筋を顎を上向けることでアダムの眼前に曝す。
いただきます、と意味を込めるようにアダムは優しく首筋に口づける。なるべく痛みを感じて欲しくないためにそっと牙を立てて、そこから媚薬を流し込むのだけれどそれに対して淫魔としての本能が覚醒するのか頭部に生える愛くるしい猫の耳は跡形もなく消え、男性としての本能を擽る豊満な肉体を持った女性の姿に変わり、濡れ羽色のような艶のある髪も全身を覆うほどの長さに伸びる。
アダムの髪は正に血を吸ったように薄紅色に染まっていき、ゆっくりと牙を抜いてすぐに塞がる傷口から溢れた血液すらも惜しいと舐め取って「ご馳走様」と満足気に笑う。
「まだ刺激が強すぎるのかな?」
「……知りません」
まるで生娘のように頬を赤らめながら視線を逸らして答える姿に似合わない熟れた果実を思わせる濃いフェロモンを放ちながら言外に食べてほしい、と訴えてくる湊にも『食事』を与えるべくアダムは背中に手を添えてゆっくりとシーツの海へ初心な淫魔の身体を沈めたのであった。
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