夢幻の人 – prologue –
むかし、むかし、 あるところに、 月のうさぎに恋をした 野うさぎがおりました。 月の光に照らされて、 野うさぎの美しい毛なみが こんじきにかがやきます。 野うさぎは満月の日に 小高い丘の上に登り、 お日さまがお月さまを食べてしまうまで、 ずっと、月に住むうさぎさんと お話していました。 満月の日でないと、 月のうさぎさんは 月の裏側に隠れてしまうからです。 なのでかかさず野うさぎは 一番月のうさぎさんに近づける 丘の上に登るのです。 ——これはとても、哀しいお話だと、私は思うのです。