夢幻の人 – 序 –

夢幻の人 – prologue –

むかし、むかし、
あるところに、
月のうさぎに恋をした
野うさぎがおりました。

月の光に照らされて、
野うさぎの美しい毛なみが
こんじきにかがやきます。

野うさぎは満月の日に
小高い丘の上に登り、
お日さまがお月さまを食べてしまうまで、
ずっと、月に住むうさぎさんと
お話していました。
満月の日でないと、
月のうさぎさんは
月の裏側に隠れてしまうからです。

なのでかかさず野うさぎは
一番月のうさぎさんに近づける
丘の上に登るのです。

 

——これはとても、哀しいお話だと、私は思うのです。