水の夢 – 起 –

水の夢 – 2 –

 五時間目が始まるぎりぎりのタイミングで教室へ戻ってきた俊樹を、水那が冷たい眼で出迎える。

「俊樹、またあの人のとこ行ってたんだ」
「ん、ちょっと勉強教わろうと思って」
「なんで?」

 水那の声は鋭かった。俊樹は特に返事をせず自分の席に着いて勉強道具を机に並べる。

「あの人保健の先生でしょ、なんであの人に教わんなきゃいけないの」

 確かに水那の言葉は正論で、俊樹にはまたも返す言葉がなかった。

「あたしたちとお昼も一緒に食べなくなったし、本当あの人が来てから俊樹変だよ」
「そんなことないって」

 むしろ毎日が楽しいと感じている。今までは毎日が梅雨のように鬱々としていたが、最近は瑞貴が戻って来たことでようやく夏の訪れを迎える気分だった。

「ふーん……」

 そうこうしているうちに教師が入ってきて授業が始まり、水那は自分の席に戻って行く。
 五時間目はタイミングよく英語で、いつもは授業中に終わらせてしまう課題をわざと残し、俊樹は放課後を楽しみにしていた。