水の夢 – 起 –

水の夢 – 4 –

 数日後、いつも以上に張り切った英語の小テストで驚異的な結果を出した。
 わざわざ瑞貴が全文読み上げているのを聞いたためだろうか。あんなに頭に入らないと嘆いたはずなのに、得意ではない英語で珍しい満点を取った。
 いつものようにお弁当と答案用紙を持って保健室へ報告へ行くと瑞貴はとても驚いていたが、自分のことのように喜んでくれた。

「ご褒美のこと忘れてないよね?」

 忘れられないように念を押して云うと「ちゃんと覚えていますよ」と笑われたのだった。



 その日の放課後。ほとんどの生徒が帰った教室で、俊樹は友也と日直の仕事をしていた。
 「今日は友達と帰るから」といつも終わるまで待っている水那が、珍しくいない状態は少し違和感がある。
 早く瑞貴のもとに行きたくててきぱきと作業をこなす俊樹を、友也は微笑ましそうに見つめていた。

「なんか俊樹、最近楽しそうだね」
「ん、まあそれなり」

シャープペンシルを動かす手を止めず、俊樹は満更でもなく答える。

「友也も覚えてる? センセーのこと」
「え、知らないよ。って俊樹って朝香先生と知り合いだったの?」
「あー友也は覚えてないか、小五の時。一回兄貴と一緒の時会ってるんだけど」

 手を止めて、顔を上げた。友也は俊樹の言葉にすべての動きを停止したかと思えばあんぐりとする。

「……え、ええっ? 朝香先生ってあの時のお姉さんなの?」
「いや、どっからどう見てもそうだろ」

 あまりの友也の驚きぶりに、俊樹はシャープペンシルを振って突っ込みを入れた。

「えーそんな偶然あるんだね。だから水那ちゃん朝香先生のこと毛嫌いしてるのかな」

 友也は過去を振り返るように視線を上に向けて息を吐く。その推測には俊樹も同感で、釣られるようにため息を吐いた。

「あの時から瑞貴のこと嫌ってるからな」

 懐かしい思い出に浸る。大学さえなければ会いに来てくれていたあの頃が懐かしい。
 今だってこうして昼休みと放課後に会える時間はあるが、瑞貴の立場が変わってしまったためにあの頃と同じとは云えなかった。
 瑞貴のことを考えながら、同時に急いでいたことを思い出して、慌てて空欄を適当に埋めていく。
 手許を見ていた俊樹は、気まずそうな表情で友也が彼を見ていることに気がつかなかった。