水の夢 – 起 –

水の夢 – 6 –

 下校時はいつも友也を含めた三人と云うのが多く、今まで水那と二人で帰ることは数えられるくらいしかなかった。
 その上先ほどの一件もあり、特に会話をすることもないまま、久しぶりに水那の家を目指して歩いて行く。
 水那から投げられた言葉に、返す言葉が見当たらない。俊樹の世界にはずっと瑞貴の存在しかなくて、ずっと一緒にいた友也も水那もいて当たり前の、家族のような存在だった。
 そんな水那に告げられた想いには、今のところ驚愕以外の感情が湧いてこない。
 家族からの告白。例えば俊樹が瑞貴に想いを伝えれば、今の彼と同じ混乱に襲われるのだろう。

(俺が、瑞貴を好き……)

 この感情は何なのだろう。今までは生死がわからない緊迫した状態が続いていたため、そんなことを考える余裕などなかった。
 しかし、こうしてまた顔を合わせられるようになった今は、どうだろう。
 人間として好きかと問われれば好きだと即答することができる。だが恋愛対象として問われた場合、煮え切らない言葉が喉の奥で争うばかりだった。
 嫌いではない。でも、そんな対象として眼を向けることは瑞貴を傷つけることしかできない気がして。はっきりとこの感情に答えを出すことははばかられている。
 気がつけばまた瑞貴のことを考えてしまった。隣には明確な好意を寄せてくれている水那がいるにも関わらず。
 つまり、これが答えなのだろうか。
 久しぶりに見る水那の家が視界に入って、俊樹は立ち止まる。
 家の鍵を開けた水那は振り返り、何か云いたそうに俊樹をじっと見た。答えを求められていることは理解できる。しかし返す言葉をまだ持ち合わせおらず「また明日」と無難な言葉をかけることしかできなかった。
 それでも水那は小さく「うん」と頷いて答え、家の中に入っていく。
 その背中を見送った俊樹も、自分の家に帰るために歩き出した。