うちのねこは散歩が嫌い。

 私の恋人は、デートをしたがらない。
 同性と付き合うのは、そもそも真剣な交際が初めてなので平均がよくわからないのだが、普通は毎週どこかに行きたいやら、何かをしたいとねだるものだと思っていた。
「ミケ、明日どこか行く?」
「え、いいです。尚さんとまったりしたい」
 胸元にミケがすり寄ってくる。まったく猫のようだと思う。
「映画とか、ご飯とか」
「あー、そういえば前尚さんが気になってた映画配信開始してた気がします。明日一緒に観ます?」
「……ほら、あれは?‎ 興味ないの?」
 ちょうど今公開中の映画のCMが流れたので指さしてみたが、相変わらず胸から離れない。全く興味がなさそうだ。
「……デート、したくないの?」
「……へっ?」
 ようやく顔を上げた。眼がまん丸で、少し興味を持ってくれたのかきらきらして見える。
「で、デート……? えっ、ど、どうしよ……!」
 口許を抑えて激しく動揺している。物は云いようなのだと、少し笑えてきた。
「そ、そんないきなり……! やば、メンテしなきゃ! お風呂いってきまーす!」
 どたばたと慌ただしく離れていかれると少し寂しいものがある。
しかし、そんなに準備が必要なのだろうか。
不思議に思いつつ、暇になったのでテレビに適当な視線を向けた。
 金曜の夜で、少し前の映画を地上波初放送ということだった。
暇潰しには最適で、初めは薄い興味だったが意外と面白く、気がつけば最後まで見入っていた。
そしてふと気づいた。ミケは何時間浴室に篭もっているのだろうかと。
ソファから立ち上がって浴室へ向かう。
「ミケ、入るよ」
 とんとんと扉を叩くと「だめですー!」と返事が来た。
「何時間入ってると思ってるの、脱水になるでしょ」
「お水あるので大丈夫ですよ!」
「そういう問題じゃなくて……」
 ガチャと開けると異様な出で立ちでバスタブのお湯に浸かっていた。
「いやー!尚さんのえっちー!」
「……何してるの」
 髪の毛はシャワーキャップのようなビニールの何かに包まれ、顔はパックでもしているのか白く、身体にも何かを巻いているようだが入浴剤の色でよくわからない。
「だ、だって尚さんとデートだから……」
「別に一緒に出かけるだけ」
「せっかくのデートだもん!‎ 一番可愛くしなきゃ!」
「……はあ」
 気迫が凄すぎて、よく分からないが頷くことしかできず扉を閉めた。
 いつも通りで、十分に可愛らしいと思っているのに、と。

 それからしばらくして出てきたミケはまた念入りに髪の毛やら身体のケアを行っていた。甘くて、いい匂いがする。
 まるで今すぐ食べてくれと云わんばかりの雰囲気に、思わず抱きしめてしまう。
「なおさ、……ん、ん……」
 唇も、頬も吸いつくように瑞々しくてそのまま背中、腰と撫で下ろしていくと弱々しい抵抗を感じた。
「だ、め……早く寝なきゃ……」
「無理。こんな可愛い子外に出したら変なのが寄ってくる」
「え……デートは……?」
「また今度」
「ええー……」
 不満げに突き出された唇を吸って、そのまま舌を滑り込ませるとくん、と甘えた声を零した。
「ミケはそのままで可愛いんだから何もしなくていいんだよ」
「……だって、尚さん綺麗だから……釣り合うようにしなきゃ」
「……ああ、もう無理」
 そして、夜が明けるまで鳴かせ続けたのだった。