それは、ほんの些細な一言から始まった出来事だった。
「んん……かげとらぁ……動けない、おしっこ……」
明日は村井が休みということで時間を気にせずじっくりと肌を重ね合った。結果、ありとあらゆる体液を吐き出してぐったりとベッドに沈み込んでいる比留間を村井は驚きを隠せない表情で注視した。
「えっ!? こんなにびしゃびしゃあいたっ!」
「うるせえ! 自分でどうこうできるもんじゃねえんだよ!」
最後の力を振り絞った一撃を胸に食らったものの大して痛みはない。その胸も比留間が吐き出した潮と汗が混じってぐっしょりと濡れていた。
「なんならお前も試してみるか?」
「な、何をっすか……?」
答えを察しながらも思わず訊ねてから村井は後悔した。比留間が人の悪い笑みを浮かべているからだ。
「その前にトイレ連れてって」
「う、うっす……」
怒らせると余計に事態は悪化すると村井はこれまでの付き合いで学習していた。脱力している比留間の身体を抱き抱えてトイレまで連れていき、きちんと扉を閉める。以前そのまま待っていたら「変態!」と叱られたからだ。正直それに近い現象をよく見ているだけに何が恥ずかしいのだろうかと思わないでもないのだが、これも突っ込んではいけないことだと理解していた。
水が流れる音が聞こえたところで扉を開けて同じように抱き抱えて洗面所を経由して再びベッドに戻ってくる。
「ローション取って」
「は、はい……」
もう寝ると云ってくれることを期待したがそうはいかないらしく云われるままに引き出しからボトルを取り出して手渡した。
「仰向けに寝て」
「み、ミケさん……? いったい何を……?」
云われた通りに仰向けに寝そべったものの不安しかなくて訊ねたが綺麗に無視して比留間は村井の股間の方に頭が来るように反対向きで横たわり、どばどばと惜しみなくローションを手に絞り出してそれを両手で擦り合わせて塗した。
その手で陰茎を握られた村井は「うっ」と声を漏らす。満足いくまで比留間の中に精を零したといえばそうかもしれないものの、どこか気遣って制御していることもあってかまだまだそこは比留間の手に反応して兆し始めていた。
「ふふ、あんなにいっぱい出したのにすぐおっきしていい子♡」
ねちょねちょと音を立てながら程よい力加減で扱き上げられると完全に勃起してまた比留間の中に挿れて揺さぶりたい欲求が湧き上がってくる。しかし今は叶えさせてもらえないだろう。比留間は村井に『あの現象』を体験させようとしているのだ。
「うあっ、ミケさん……っ、やばっ、も……っ」
「いいよ♡ 我慢しないで♡」
「うっ、う……っ、く……っ!」
どぷどぷと精を零す開放感に浸ろうとすると比留間は無慈悲に過敏になっている亀頭をぐりぐりと弄り始め、びくびくと腰が跳ねて全身に力が籠る。
「みっ、ミケさっ……むり! 無理っす!」
「だーめ♡」
「あっ、だめ、やめっ……うあ……っ!」
「かわいい景虎……♡」
思わず手足が動いてそれで比留間を傷つけてしまわないようにシーツを掴んで無慈悲に与えられる刺激に悶絶する。同じオスだからこの辛さは比留間もわかっているはずなのにどこか楽しげな彼女の様子がぼんやりと霞んできた時だった。
「あっ、あ……、ああぁ……っ!」
陰茎の感覚が麻痺したかと思えばばたぱたと腹部に生暖かい感触が降り注いだ。
「あは♡ 上手に潮吹きできたね♡ えらいえらい♡」
「うっうう……」
ようやく責め苦から解放されて放心する。しばらくするとじわじわと羞恥心が込み上げてきて両手で顔を覆った。
「うっ……ひどいっす……もうお婿にいけない……」
「……俺がいるじゃん」
「えっ」
「なに? もう一回してやろーか?」
予想外の比留間の言葉に気の抜けた返事をすると、顔を真っ赤にした彼女に上に伸し掛られて全力で首を左右に振った。
「ミケさん俺のこともらってくれるんすか?」
「……いーよ」
するりと比留間の腰に腕を回して起き上がる。そのままどちらからともなく唇を重ね合わせて舌先を擦り合わせるとふわりと甘い匂いが村井の鼻をついた。
「ねえ……もっかい、しよ?」
とろりと溶けた瞳で見つめられると堪らない心地にさせられて、求め合って夜は更けていくのだった。
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