設楽うさぎの躾部屋。-メイド編-

 にたにたと笑う設楽うさぎに村井景虎と共に比留間ミケは部屋に閉じ込められた。逆らっても余計に事態はややこしくなるだけである。比留間は反抗する村井を宥めて大人しく入室して部屋の中を見回した。変わったところは特にない。寮と同じ造りだと思われる内装でキッチン、バストイレ、寝室へ続くと思われる扉がある。
 念のために警戒しながら扉を開けると寝室には誰もおらず、ベッドの上には服と手紙が置いてあった。それを広げてみると比留間はその場でがっくりと膝を着きそうになった。いわゆるメイド服ではあるけれど丈も短かければ胸元も隠すつもりがあるのかと思うほどがっつりと開いている。嫌な予感を抱きながら手紙の封を切ると『一日それを着て村井に奉仕したら合格です』と書かれていて思わず「はぁ?」と声がこぼれた。
「ミケさん? どうしたんすか?」
「……ほれ」
 語って聞かせてやる気力もなく命令書を突き出す。どれどれと村井は眼を走らせ、その内容を理解すると顔を真っ赤にした。
「えっ、えぇええ!?」
「あほくさ、別にやんなくてもバレねぇ」
『こんなこともあろうかと部屋をモニタリングしていますよ』
「!?」
 どこからともなく聞こえた設楽の声に二匹は同じタイミングで身体を震わせてきょろきょろとその出処を探ったけれど見当たらない。ただ不気味に笑い声が響く。
『さあ、きちんと命令を果たしていただきましょうか』
「ちっ……わかったわかった。やるって、冗談だって」
 上着に手をかけて脱ぎ出す比留間に村井は顔を覆って視界を閉ざす。そのせいで衣擦れの音がやたらと耳に入るのか尻尾が落ち着かない様子でゆらゆらと揺れている。
「もーいいぞ」
 着替えを終えて比留間が声を掛けると村井は恐る恐るといった様子で手を下ろした。そして視界に飛び込んできた比留間の姿に眼線をあちらこちらと視線を彷徨わせたものの、やはり強調されている胸元に落ち着く。
『なっていませんねえ……そうですね、村井のことをご主人様と呼んでみては?』
「はぁ……、ご主人様」
 まったく敬っているとは思えないふてぶてしい呼び方だったけれど村井はうっと息を詰めた。普段尻に敷かれているだけに躾とはいえ比留間とこういった関係性になるのは初めてで、正直なところ刺さるものは村井の中にあるのであろう。
「み、ミケさん……」
「っばか、離れ……い、いけませんご主人様……メイド風情に」
 がばっと抱きしめられると最初はいつも通りの反抗的な態度だったけれどすぐに状況を思い出して弱々しい抵抗になる。新鮮な反応にぎゅうと村井が腕に力を込めると諦めたように身体から力を抜いて、されるがままになった。
『ふふ、では一日頑張ってくださいね』
 こうして比留間にとっては地獄の一日の始まりが無慈悲に宣告された。

「……何食べたいですか……、ご主人様」
「あ、そういえば飯まだでしたね」
 起床して比留間がさて朝食でも作ろうかとしていた時に二匹は設楽に呼び出しを受けたため食いっぱぐれている状態であった。比留間は冷蔵庫の中を確認して本当に一日この部屋でこんなイメプレのようなことをしなければならないのかと密かに肩を落とした。
 メスになってどのくらい経ったのであろうか。未だに元に戻れる気配もなく病気療養のためという建前で裏方の仕事を手伝う日々を送っている。過去には設楽の眼の前で自慰を公開させられる羽目にも遭ったというのに、まさかまたこんな形であの男の躾を受けるとは夢にも思わなかった。
「ミケさんが作ってくれるなら何でもいいっすよ!」
「…………」
 このご主人様はメイドに対して随分低姿勢だと思わず笑いそうになる。かといって突然横暴に振る舞われたらなんだコイツと反抗的な態度になってしまいそうなので有難かったけれど。
 何でもいいという寛容さに甘えていつも通りの簡単な朝食を拵えることにする。米を研いで炊飯器にセットして冷蔵庫にあった魚を焼いて味噌汁を作って、村井の好きな甘めな卵焼きを焼いた。
 それらをテーブルの上に並べて二匹で両手を合わせて「いただきます」と挨拶をして箸をつける。味噌汁を啜った村井は「美味いっす!」とご機嫌でおう、と軽く返事をしかけてそれを飲み込み「ありがとうございます」と返した。
 村井に奉仕をするということだけれどいつもと変わらない朝の風景。この後だっていつもなら洗濯をして掃除をしてそれらが終われば昼食を作って、本を読んだりしているうちにまた夕食の時間になってそれを拵える。
 これらのことを村井にやらせると逆にやることが増えるので自分が請け負っているだけであって、別に奉仕をしているつもりはない。それにこの部屋は片付ける必要もなければ時間を潰すアイテムもない。
 こんな状態でさてどうやって一日を過ごそうかと考えていると「お代わりくださいっす!」と一日限定のご主人様に告げられて、比留間ははいはいと茶碗を受け取った。

 恙なく朝食を終えて洗いものを済ませて早速やることがなくなってしまった。村井も村井で暇そうに筋トレをしている。しかし眼線が、ちらちらと送られているのはわかる。構ってほしいのであろう。しかし今は設楽の監視がある。下手に手を出すこともできなくて悶々とさせられた。
(こんな時何したらいいんだ……)
 せっかく村井も自分も休みで昨晩だって睦み合ったものの今日だって出来る限り触れ合っていたいと思う。なのに設楽の眼があると思うとしたいこともできやしない。はあ、と思わず溜め息を吐くと村井がこちらを見る。何でもないと首を振っても視線は離れずじりっと腹の奥に疼きを覚える。
 触れたい。触れられたい。こんなに近くにいるのに、もどかしい。
「あの……っ」
 村井の眼が熱を孕んだものになっていてそんなに物欲しそうに見つめてしまったのかと恥ずかしくなる。
 立ち上がった村井がずんずんと近づいてきて抱きしめられるととろりと理性が溶けそうになってしまった。変態に一部始終を見られるなんて真っ平ごめんである。
「や、だ……離せ、離れてください……っ」
『おやおや、ご主人様がお望みなのですから……ねえ?』
 どんな顔をしているのかありありと想像できる喜色に染まった声に肌が粟立つ。アイツは正気なのか? 否、元々が狂っているからこれが正常な思考なのであろう。
『ご主人様にご奉仕なさい。ただ、貴女はあくまでご奉仕するだけですよ』
「えっ?」
 云っている意味が一瞬理解できなくて気の抜けた声が漏れる。そして意図を察した瞬間にじくっと身体の芯が熱くなった。村井の熱を静めるだけで、自分は耐えなければならないのであると。口にするだけで堪らない心地にさせられるのに、腹の奥に迎えられないなんて。それを考えるだけでより官能を高められるなんて人のことを云えないと比留間は密かに嘆息をこぼした。
『ああ、私もさすがに覗きの趣味はありませんのでご安心ください』
 「ではごゆっくり」という言葉の後にぷつりとノイズが聞こえて室内は静寂に包まれた。
「はあ……じゃあ、失礼しますかね」
「えっ、い、いいんすか……?」
「あの変態の良心を信じるしかねえ。あ、ないので……」
 とんと胸を押してベッドに座らせて脚の間を陣取る。
 動揺した様子を見せながらもしっかりと視線は胸元に向けられている村井の意図を汲み取って、大きく開いた襟首を引っ張るとぽろりとたわわな胸部がこぼれ落ちる。スウェットの腰の部分の紐を口で咥えて解き、ずり下ろすと既に反応して上を向いているオスの部分が視界に入ってごくりと生唾を飲み込む。見られていないなら、バレないんじゃないかとそう思いながらも馬鹿みたいに律儀な自分が、被虐的な自分が村井を高めるだけだと念を押してくる。今我慢すれば、この部屋から解放された時に感じる快楽は何倍にもなると。
 ちゅうと先に唇をつけて舌を這わせる。立派な亀頭を舐め回すだけでそこはぐぐっと大きさを増す。可愛い。大きさも、その動き方も凶暴そのものだけれど、素直な反応を見せるそこを比留間は好いている。
 ぺろぺろと全体を舐めて唾液を塗して胸を両手で持ち上げてその谷間に挟む。豊満な比留間の胸部を以ってしても収まりきらない村井の陰茎の残忍さにいつもそれを受け入れている肉筒が疼いて涎を垂らした。まるで甘味でも食べているかのように覆いきれない先端部分を舐め回しながらぎゅうぎゅうとやわい肉で陰茎を扱き上げた。
 実際それはまたたびよりも甘く理性を蕩けさせる。ちゅうちゅうと吸い上げて飲み込めば飲み込むほどに餓えて、ぽっかりと口を開けて満たされるのを待っているそこがひくひくと収斂した。
「ミ、ケさ……っ、やばっ……」
「ん、……ふふ、ご主人様おっぱい大好きですもんね」
「うぅ……っ」
 ご主人様、もしくはおっぱい、はたまた両方であろうか。比留間の言葉に村井のそこはぐぐっと限界まで張り詰める。滅多にしてやらないこの行為に村井が興奮しているのは嫌という程に伝わってくる。これだから童貞は、と比留間が揶揄ってやりたくなるのは仕方がない初心な反応である。
 ぢゅっと音を立てながらきつく吸い上げると濃厚な味に咥内が満たされて尻尾の付け根がずくっと疼いた。早く、早く飲ませてと赤子のように吸っているとどろっとした白濁が溢れてきて夢中になってこくこくと飲み込んだ。きちんと尿道に残っている分も吸い出して嚥下した。
「ミケさん……っ」
「っ、やめ、触んな!」
 興奮した村井の腕が腰に手を回されてかっと体温が上がる。またどろりと涎が溢れてきてしまって、咄嗟に脚を閉じた。この短いメイド服では太ももまでどろどろにはしたなく汚していることがバレバレになってしまう。
「……悪りぃ。でも触られるとしんどいから」
 しゅんと落ち込んだ顔をさせてしまったことを詫びると「あ……」と村井がそっと手を引く。それでも視線が痛いほどそこに刺さってまたきゅうと腹が疼く。
 もう少し。夜にはご馳走が待っている。そう宥めてまだ村井の味が残る涎を飲み込んだ。

『きちんとご奉仕できましたか?』
 股の間が不快すぎて湯浴みに行って帰ってきた時、久しぶりに聞こえた設楽の声に気分が落ち込むのを感じた。
「本当に悪趣味……」
 思わずぼそっと本音をこぼすと『何か仰いました?』と返ってきて「喜んでご奉仕しました」と声を張り上げた。
「だからもういいんじゃねえ? まだ合格もらえねえの?」
『一日と書いてあったでしょう?』
「ですよねー」
 乾いた笑いが込み上げてくる。村井の精液を飲み込んだせいで余計に身体は反応していた。もう、設楽の眼があったって別に構いはしないのではないか。せっかく清めたのに脚の間はすぐに湿ってきてしまう。
『村井も、せっかく比留間を好きにできるのですから何か命令しなさい?』
「ええぇっ!? いや、もう十分っーか……早く部屋に帰りてぇんだけど」
『おやおや、無欲ですねえ』
「だってよぉ、お前が見てたら何もできねえだろーが!」
『ほう……?』 
「ふ、普通よぉ、見せもんじゃねえんだから……こういうのは」
『外で盛って何度も何度も反省文を提出している貴方にもそんな考えがあったんですねえ』
「うっ!」
「もういい、もういいわ……」
 一瞬でもこの状況から脱せられると思った比留間は自分の浅はかさを呪った。
 ご主人様の口を覆って、この無為な云い争いを終わらせる。
「本当に、俺にやらせたいことないわけ? あ、ないんですか?」
「別にないっすよ! あと敬語使わなくていいっすよ……なんかむず痒いっす」
「ふーん…… 景虎、お前って本当にいい子な」
「え、そうっすか? へへ……」
 無邪気に村井は笑った。自分が同じ立場になったらどうするだろう。刹那陰のような感情が過ったけれど毒気のない笑顔を見ていると釣られるように笑ってしまう。きっと比留間も村井のように何も望まないのであろう。村井がそういう風に比留間を変えたのだから。

 比留間に気を遣った村井が付かず離れずの距離を保ってぎこちない状態で時間は過ぎていった。時の流れがやたらと遅く感じる。常に監視しているほど暇人ではないにしろ設楽も退屈な状態であろう。余計なことを考えないように心を殺していると無意識のうちに爪を齧っていた。思ったよりもこの状況がストレスらしい。それも無理はない。好きなように恋人に触れられない上に監視されているのだから。
(ああ……ヤりたい……)
 ちらりと村井に視線をやり掛けて慌てて顔を覆う。これでは先ほどの二の舞いである。今度こそ村井と触れ合ったら確実に抑制が効かなくなることは眼に見えていた。しかし比留間の頭の中はそれで埋め尽くされている。
(だめだ、なんかしてないと)
 ベッドから立ち上がると村井の視線を感じた。
「暇だから丹精込めてご主人様が好きなやつ作ってやるよ」
「お、おお……!」
 きらりと村井の瞳が輝く。彼は見た目通りに子供っぽい料理が好きである。特に好きなハヤシライスにオムライスもつけてやろう。この部屋での監視される時間が終われば、村井には頑張ってもらわなければならない。
 ちらりと唇を舐める。手をかければかけた分だけ、ご馳走は美味しくなるのだから。
 冷蔵庫を開き材料を取り出して下拵えをする。微塵切りにした玉ねぎを炒めていると匂いに誘われたのか村井が様子を見にきた。
「なんか手伝うことないっすか?」
 珍しいこともあると比留間は驚いた。炊事は苦手な村井がそんな申し出をするなんて。一瞬で何でも消し炭にする特殊な才能がある村井がやらかすのではないかと思ったけれど、そもそも今日は村井に仕える日である。
「ご主人様はどんと構えて待ってな……あとで、頑張ってもらうから」
 にやりと笑って付け加えると村井の顔は茹で蛸のように染まる。美味そうで、思わず頰に口付けたくなった。危ない危ない、村井が無駄に馬鹿でかくてよかったと比留間がこれほど思ったことはない。
「うう……ミケさん、ちょーっとだけ、」
「馬鹿マジで触んな、本当に食うぞ」
 「ですよねー」と云いながらすごすごと姿を消した村井から視線をフライパンに戻すと少し焦がしてしまった。まるで今の比留間のようで苦笑いする。堪え性がない、とこの身体になる前に設楽から云われていたことを思い出す。まったくその通りだけれど心から好きな相手との秘め事は明かしたくないという感情が芽生えてきたのである。少しは成長したと比留間は自分を褒めてやりたくなる。
 可愛い恋人。比留間だけに見せてくれる顔、その声も、誰にも知られたくない。毒されている自覚はある。しかしそれが心地いのである。
 素直に喜びを伝えてくれる村井のために手間暇を掛けて調理を進めていく。仕えることを強いられているからではない。ただ単に村井が喜ぶ顔が見たいからである。
 玉ねぎが飴色になったところで他の具材も軽く炒めてから水を入れてよく煮込む。時々灰汁を取りながら鍋の様子を見ていると気が紛れてよかった。
 いろいろと見透かされているかのように用意されていたハヤシライスのルーを入れてまたしばらく煮込む。隠し味にケチャップを少し足すことが村井の好みである。
 火を弱めて次はオムライスの用意をする。こちらはそれほど手間ではない。みじん切りにした野菜を炒め白米を入れて。ケチャップをかけて満遍なく味がつくようにする。そして完成したケチャップライスを皿に盛り付けてフライパンを洗ってからバターを入れて溶かし卵を割入れ、ふわふわとろとろになるように火加減を調節しながら熱を加える。
 出来上がった卵を先ほど盛り付けたケチャップライスの上に乗せて包丁で切れ目を入れたらハヤシライスのルーをかけて完成である。
 後は冷蔵庫にあった生野菜で適当にサラダを作って、彩りも添えておく。村井的にはサラダはあってもなくてもどうでもいいのかもしれないけれど、野菜も食べさせなくてはという謎の親心のようなものが比留間にはある。
 出来上がったそれぞれをテーブルに運んでいくと村井は尻尾をぶんぶんと振って全力で喜びを伝えてきた。
「なんかお子様ランチみたいっすね!」
「そうか? 旗でも立てておけばよかったな」
 「おお!」と興奮した様子をみると今度用意してやるかなんて気持ちにさせられる。旗ひとつでそんなに喜んでくれるのなら安いもの。
 また手を合わせて挨拶をしてから早速大きな一口でハヤシオムを食べた村井は「ん~」と噛み締めるように味わっている。いちいち大袈裟だと思うけれど悪い気はしない。作りがいがあるというものだから。
 比留間も食べてみた。少し玉ねぎが焦げたことが最終的にはコクを出してくれたようでまあまあ美味しかった。
 がつがつと食べる村井を見るのことが比留間は好きで、食欲よりも性欲の方が勝っているせいかあまり食指が伸びず、すぐに平らげてしまった村井に残りをあげると「いいんっすか!」と嬉しそうに食べてくれて、比留間は笑みを浮かべながら飽くことなくその様を眺めた。

「な……っ、やめ、アイツ見てるかもしんねぇのに……!」
 比留間が夕食の後片付けをしていると不意にまた村井がやって来て手伝ってくれるのかと思いきや後ろから抱きしめられて、項に歯を立てられると危うく皿を落としてしまいそうになった。
『まあ、貴女にしては頑張った方だと思うので今日のところは合格にして差し上げますよ』
 その言葉の後にかちりと解錠された音が二匹の鋭い獣耳に届いた。
 やっと、セックスできる。そう思うと比留間はもう皿洗いなんて放り出して村井と過ごしている部屋に帰りたくなった。しかし変なところが生真面目な部分が出てきて背後の村井の熱を感じながら使った食器類をぴかぴかに磨き上げる。
「景虎……だっこ……」
 作業を終えたら一気に脱力感が襲ってきて身体を預けるとひょいと簡単に抱え上げられて胸元に顔を埋め深く呼吸を繰り返す。陽向のようなやわらかな匂いなのにメスの部分を酷く刺激する村井の匂いに肺が満たされると堪らなくて、匂いの濃い首許に舌を這わせた。
 ごくりと生唾を飲み込む音とそれに合わせて動く喉仏に噛みつきたい。こんな時にはいつもメスの身体になったことを歯痒く感じる。何をするにも届かなくて、村井の協力なくしてはしたいことも自由にできない。
 今は腕に抱えられているので首に手を回して急所に甘く噛みつくとどきりと心臓が高鳴ったことを肌に感じる。
 約一日閉じ込められた部屋を出て村井は足早に自室へ戻った。幸い他のペットと鉢合わせることはなく村井は部屋の鍵をしっかりとかけて早々に寝室へ向かい、比留間をベッドの上に寝かせた。
「はや、く……さわって……」
 いつもの比留間なら自分で解して村井の上に乗っかり好きなように動くことが好きだけれどもうそんな余裕はない。はくはくと入り口は小刻みに震えてとくとくと蜜を拵えて村井のものを求めていた。
 比留間が脚を開くと丈の短いスカートが捲れ上がりメスの部分が村井の眼前に曝される。日中シャワーを浴びた時に替えの下着なんてもちろん用意はなかったのでずっと身につけていなかった。
「ご主人様……はしたないメイドでごめんなさい……ご主人様の……欲しいの……♡」
「っ!」
 あどけなさ残る少年のような顔から本能剥き出しのオスの表情に変わっていくところを見ることが比留間は堪らなく好きである。まるで汚しているようで背徳感を煽られて興奮した。
「ご主人様の立派なおちんちん……だめメイドにください♡」
「みみみ、ミケさん……!」
「あうっ♡」
 興奮した様子の村井だけれど比留間の日頃の教育に依る賜物でいきなり指を突っ込んでくるような真似はしない。太ももまで滴る蜜を村井が指で撫でながら絡め取ってから会陰を撫で回されるときゅうとその指が入ってくるところを想像して中が締まる。
「あっ、やあぁ、太いぃ♡」
 十分に濡れたところで村井の指がぬるりと滑り込んでくる。まだ一本だけなのにその存在感は大きかった。
「み、ミケさんこれじゃ入らないっすよ……?」
「あうぅ、だめメイドだからぁ、自分でどうにもできなっ、あ♡ そこだめぇっ♡」
 膣圧に逆らって何とか根元まで埋められた村井の指が中で折り曲げられると腫れ上がった部分を掠めて気持ちよさに食い締めるとびゅっと透明な雫が迸る。窮屈そうに指を動かされると堪らなくてひっきりなしにそれは続いた。
「ミケさん、本当に気持ちいいんすね」
「あっ♡ 気持ちいっ、指だけなのにおもらししちゃうくらい気持ちいぃ♡」
「っ……」
 ぐりっと力強く中を掻き回されて勢いよく吹き出した潮が村井の顔を汚してそれだけで軽くイってしまう。一度指を抜いて薬指と人差し指も添えて中に入れられると圧迫感が強まって比留間は腰をくねらせる。
「やあぁ、そんな一気になんてぇ……♡」
「俺も限界なんっすよ……!」
「あっ、あ、いいよお♡ ぐちゃぐちゃに、してぇ♡」
 それぞれの指が意思を持って中を広げるように動くといい部分が同時に刺激されて比留間は何度も甘イきさせられた。村井のものは体躯に見合った長大なものだけれど指だって比留間に比べれば十分に太い。そんな指がずるりと糸を引きながら出てくると膣口はぽっかりと開き、色濃い赤い粘膜が捲れ上がった。
「あっ、はあ……♡ ご主人様っはやく、はやくぅ♡」
 村井が前を寛げて熱り勃った逸物が姿を見せると比留間の腹がきゅうぅんと疼く。あれに奥までみっちりと満たされる。そう考えるだけでもう上からも下からも涎が溢れてきて止まらない。
 ローションを塗って身体を重ねられると比留間は無意識に甘えるように村井の腰へ脚を絡めた。ぐぷっと音を立てて先端がゆっくりと肉壁を広げていく。その感覚に比留間の身体からどっと汗が吹き出てくる。
「あっ、あ、ああぁっ♡ おっきいよお……♡」
 敏感になりすぎた膣壁を立派に張り出たエラで擦り上げられていく。それはあまりにも甘美な快感で逞しい背中に縋り付いてはふはふと犬のように息を荒らげた。
「あぁっ、おく、奥だめぇ……っ届いちゃう……っ♡」
 じんじんとずっと暴かれる時を待っていた奥の壁が予感に震える。実際は些細な刺激であった。村井が勢いよく腰を使ったわけでもないのにずんと子宮を突き上げられたような錯覚に全身が震える。
「あああっ、イくぅ♡ 来ちゃうううぅ……っ♡」
「うっ、うぅ……っ!」
 激しい絶頂感に比留間の下腹部が、全身が引きつけを起こしたように痙攣する。隙間なく満たされているはずなのにもっととねだるように粘膜が村井のオスを締め付けて離さない。射精を煽るような刺激に釣られて村井が奥の奥で精をこぼす。
「ひあぁっ♡ あっ、あ、出てるぅ……♡ ご主人様の赤ちゃん♡ 出来ちゃうよお……♡」
「っ、ミケさ……っ!」
「んんんぅ♡」
 喧しく囀る唇を村井が塞ぐと官能は高まる一方で比留間はちゅうちゅうと甘えるように吸い付く。そのまま萎えない陰茎でごりごりと吐き出された精液を塗り込むように容赦なく抉られると比留間は今自分がイっているのか、そうでないのかわからなくなってくる。
「っは、あん、ん、ご主人さまぁ、好きぃ♡」
「っ、そこは名前で呼んでもらった方が、嬉しいっす」
 不満を訴えるように動きを止められて、比留間は切なさに中を蠕動させる。
「あっ、かげとらぁ……すきっ♡ かげとらぁ♡」
「俺も、好きっすよ……ミケさんっ」
 ぐんと奥を突き上げられてちかちかと目蓋の裏で光が散った。もう何もわからない。何も、考える必要もない。ただただ眼の前の愛おしいオスに縋りついて、たっぷりと与えてもらえるご馳走に比留間は酔い痴れた。

☩ ☩ ☩

 明け方近く、比留間は眼が覚めた。散々食い散らかされた村井はぐーぐーと寝息を立てて深く眠っている。
 有害な酸素を求めてベッド脇のテーブルから煙草の箱を手繰り寄せて一本抜き取り火を点した。深く息を吸い込むと煙混じりの酸素が肺を満たして、久々に思えるそれに頭がくらりと揺れるような錯覚を起こした。
 細く長く息を吐き出すと視界が一瞬白く染まってすぐに消えた。それを幾度か繰り返して比留間は自分の前髪をくしゃりと乱した。
「あー……」
 声が掠れる。欲求不満を拗らせたとはいえこれまた随分と派手にやらかしてしまった。過去に関係を持っていたヒトの影響で様々な『癖』を植え付けられたけれど日頃はそれを抑えることができている。しかし一度箍が外れてしまうと比留間は自分が何を云っているのかさえわからなくなってひたすら子種を求める獣に成り下がってしまう。
 理性が戻ってくると比留間はこんな自分を村井がどう思っているのか気になって仕方がない。とはいえ村井は比留間以外を知らない。これが普通だと思っているとしたらそれは大きな誤解だと教えてやりたい。しかし意外と嫉妬深いところがある村井にそんなことを云えば洗いざらい吐かされることになるのでそれは避けなければならない。
「んん……ミケさぁん……」
「っ!」
 灰皿に灰を落としていると不意に名前を呼ばれてどきりと心臓が高鳴る。けれど言葉が続かないところをみるとどうやら寝言のようである。
 驚かせやがって、と比留間は村井の頬を突くとむにゃむにゃと口を動かして締まりのない笑顔を浮かべる。どんな夢を見ているのだろうか。
 その夢の中の比留間も、こんな下らないことでうじうじと悩んでいるのであろうかと想像する。
「可愛い奴」
 灰皿に吸い殻を押し付けて火を消す。すっと煙が立ち上って光が消えたことを確認して定位置に戻して再び布団に横になる。すると何かを探すように村井の腕が動いて比留間の身体を捕えると安心したように深い呼吸に戻る。
 比留間は村井のことを自分にはもったいないほど純粋で、可愛い恋人だと思っている。本人には意地でも伝えてやることはない。
 村井の胸に頬を押し付けてゆっくりと眼を伏せる。村井と一緒にいる幸せな夢が見られますように。
 随分と毒されたものであると比留間は微かに口許を緩めて、深い眠りに落ちていくのであった。