一緒に過ごすことはもちろん嬉しいことで村井の胸は弾んでいた。
しかし比留間の視線は自分に向けられなくなってどれほど経った頃だろうか。
うずうずと尻尾が暴れるのを止めることができない。
構ってほしい。
手持ち無沙汰で行っていた筋トレを中断して村井は比留間が居るベッドの端に顎を乗せて様子を窺った。手元の本に意識を向けている比留間は介した様子もなく思わず欠伸が零れてしまいそうな文字の海に静かに浸っている。
指名が多い比留間にとっては珍しい休みだ。ゆっくりと自分の好きなことをして気分転換をしてほしいとは思う。それでも一緒に、時間を共有したい。
そう思ってしまうのは比留間が村井よりも長く生きているからなのか、そういう質なのか。
「……ミケさん」
思わず名を呼んだ声はあまりにも頼りなく。より寂しさが増してきて取り消したくなった。
「……どした?」
「!」
予想外なことに返答はあって、それが嬉しくて堪らなくて。衝動のままにベッドに飛び乗りぎゅっと抱き締めること僅か二秒。
それから顔を近付けてぐっと比留間の唇に自分のを押し付ける。
「ん……、ふ、子供っぽいキスだな」
「おっ、俺だって本気出したらすごいんっすよ!」
「へえ……じゃあ、本気出してもらおっかな?」
「う、うっす……」
比留間は伏し眼がちに村井を見つめてにやりと人の悪い笑みを浮かべる。大口を叩いたもののいつも比留間にされているキスの内容を思い出そうにも複雑すぎて、正直何をどうしたら正解なのかわからなかった。
ひとまず何かしなくては。村井は比留間の顔を両手で包んでまた唇を押し付けた。次に唇を開いて舌を出すと受け入れるように比留間が口を開けてくれたので舌を入れてみたはいいものの、この状況だけで村井の頭はパンク寸前だった。
自分とは違う狭い咥内に薄く感じる舌。それに舌先で触れると「ん」と微かに甘えた声を比留間が上げて村井の心拍数が急上昇する。
恐る恐る触れ合わせていると焦れた様子で比留間の舌が絡みついてきてぢゅっと吸われると尻尾の付け根が落ち着かない心地にさせられた。
そのまま舌の側面、付け根を舐められる。それを真似て舌を動かすと触れている頬が熱を帯びてきているのがわかる。
「ん……は、んふ……」
「は……ミケさ、ん……」
夢中で舌を触れ合わせているだけで先程までの寂しさなんて簡単に掻き消えてしまう。
もっと、もっと気持ちよくなりたいと思って舌を伸ばすと不意に比留間が口を閉じてしまい、興奮に揺れていた尻尾がシーツに垂れる。
「んー、二十点かな」
「えぇええぇ!?」
こんなに気持ちよかったのに。とは思うものの比留間がするキスに比べては確かに物足りないかと意気消沈する。
「も、もっと練習するっす!」
しかし村井のいいところは簡単にへこたれないことだ。
「だから、その……ミケさん……」
再び本に手を伸ばした比留間の手の甲を村井は自分の手で緩く押さえ込んだ。
「……いーよ」
ふっと笑った比留間はそのまま村井の首に腕を回して、深く唇を重ねたのだった。
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