四月馬鹿。

「なあ」
 己を組み敷く村井景虎の頬をなぞって比留間ミケはちらりとベッド脇に置かれた時計に視線を向けた。夜も深まり日付が変わり、同じように三月から四月へと変わっていた。
「ど、どうしたんっすか、どっか痛いっすか?」
 真面目な恋人は今自分が嘘を吐こうとしているなんて考えもせず身体を気遣う言葉を降らせた。刹那揶揄うのはやめておこうか。そんな理性が働くもやはりどんな顔をするだろうかという好奇心には抗えず、真剣な表情を作る。
「最近アレ、来ないんだよね」
「あれ……?」
 ぽかんと村井は今この状況に相応しくないほど間の抜けた表情を浮かべた。
「ん……、もしかしたら、できたのかも」
 村井の半身を受け入れている腹を優しく撫でる。ここまであからさまに匂わせると流石に察したようで大きな瞳がこぼれ落ちるのではないかと思うほど見開いた。
「えぇええ!? ま、マジっすか……!? って、また騙そうとしてません……?」
 期待と歓喜に頬を染めたものの、過去に猫又翡翠が比留間の体調不良の理由として挙げたことをすぐに思い出したようで眉毛を下げて唇を尖らせて拗ねた表情で訊ね返される。
(そもそも俺に生理があることを疑わねえのか)
 純粋すぎる可愛い恋人。腹の奥に埋められた陰茎を貪るように力を込めるとじんと下腹部が甘く痺れる。村井もうっと息を詰めてより快感を得ようとより奥を目指して腰を進めてくる。
「っ、なぁ、できてたら、どうする?」
「決まってんじゃないっすか……っ、俺、絶対大事にするっすよ、ミケさんも、子どもも」
 だから孕んでくれ、と。そう乞うように最奥のやわらかな粘膜を捏ねるように突き上げられて喉が反り返る。全身から汗が吹き出して最も弱い部分を暴こうとしてくる侵略者の動きを助けるように腰に脚を絡めた。
「ひ、あ、あぁ」
 切っ先がずっぷりと奥の奥まで侵入してきた感覚に目蓋の裏に火花が散る。言葉にならない単音が空気を震わせる。村井は無意識に逃れようとする比留間の腰を掴んで繊細な粘膜をごりごりと擦り上げる。
「や、あう、あ、あぁ」
 ぐぐう、と臓腑が震える。内臓を掻き乱される恐怖と紙一重の快楽に粘膜は村井の逸物に食らいつき、しゃぶり尽くすように締め上げる。それに逆らうように力強く出し入れされると脳まで掻き回されているようで加減を忘れて強く背中に爪を立てる。似たようなところに幾筋も刻まれたそれはすべて自分がつけたもので、これからも増やしていくのは己だけだと思うと自分ではそれほど持ち合わせていないと思っていた独占欲に気づかされる。
「やだぁ、そこ、ばっか……も、やだ」
「ミケさんが離してくれないんっすよ、ほら」
 村井が急に動きを止めるとそこはもっと奥まで飲み込もうと蠕動して物足りなさに腰が揺らめく。
「んん、あ、だってぇ、ほんとに、孕みそう」
「だって、そう思ってるっすから」
「えぇ……っひうぅ!?」
 ごりゅっとやわらかな肉を弾力のある肉塊が突き上げて声が裏返る。それで村井の長大なものがすべて腹の中に収められたのだとわかって涙腺がおかしくなったように涙がぼろぼろと溢れてくる。
「やっ、うそ、あ、だめ、動くなぁっ」
 ぐぽぐぽと立派に張り出た部分が奥の口を出入りする感覚に肌が粟立って抗いようのない絶頂感が迫ってくる。崖の淵に立たされて容赦なく突き落とされるような乱暴なそれは浮遊感を伴って、意識が混濁した。
「っ、きっつ……!」
「っや、やめ、やあぁ……っ!」
 激しい粘膜の収斂に逆らうように律動は続けられてずっと空を泳いでいるような感覚から抜け出すことができなくて締め付けが強まれば強まるほどに村井の官能を高めていく。正常な頭ならそれが理解できるはずなのに、天地すら曖昧なほど蕩けた脳にはそれがわからず、ただ子種を求めるメスのように肉棒に媚びた。
「っ、く、う、う……っ」
 小刻みに穿つような動きに村井の限界を感じて比留間は腹の奥が疼くのを感じた。冗談だったのに、揶揄うつもりで云ったのに本当に身体がおかしくなってしまった。
「あ……っ、出してぇ……孕ませてぇ……っ」
「ぅ、ミケさん……っ」
 噛み付くように唇を塞がれながら、ぐっと根元まで埋めたまま何度も擦られて腫れ上がった粘膜にびしゃびしゃと精液を浴びせかけられて下腹部が引きつけを起こしたように歓喜に震える。
「んっ、ふ、うっ、うう……っ」
 腰から下が痺れてただこの魅力的なオスの子どもを孕むことしか考えられなくなる。同じオスだというのに、すっかり屈服させられてしまった事実に被虐心が煽られてきゅうと立派なオスを食い締める。
「っ……、ミケさん、まだ足りないっすか?」
「……うん、もっと、ちょーだい」
 まだ硬度を保っているそれをねだるように締め付けて比留間は嘘から出た実なんて言葉もあったな、とぼんやりと考えたのだった。

続き☩きみは、天使。