「愛している。」
そう口にした瞬間、あなたは消えてしまいそうで。
彼には五年間ずっと、忘れられない人がいたーー(あなたが笑えなくなった理由は、)
夢幻の人 – prologue – むかし、むかし、 あるところに、 月のうさぎに恋をした 野うさぎがおりました。 月の光に照らされて、 野うさぎの美しい毛なみが こんじきにかがやきます。 野うさぎは満月の日に 小高い丘の上に登り、 お日さまがお月さまを食べてしまうまで、 ず…
夢幻の人 - 5 – 奥深くに沈んでいた意識が、覚醒へ向かおうとしている。 そんな微睡みの中、カーテンを引く音が俊樹の耳に届いた。そして冷たい指先が額に触れた時、急速に感覚を取り戻す。 前髪を払うようにそっと細い指が動き、整髪剤で固めた髪を優しく梳かれる。 その心地好さに俊樹は浸…
夢幻の人 - 12 – 「……センセー」 完全に他の人間の気配がなくなった室内。俊樹は先ほどの剣幕が嘘のような優しい声で名を呼んで、足音を立てずにベッドに近づく。 途端に強く香った甘い匂いと、乱された衣服から覗く艶かしい肌があまりにも眼の毒で。俊樹は必死に視線を逸らしながらシャツのボ…
『彼女』に関して、忘れてしまいたいことがある。(この雨は、いつか止むのでしょうか?)
水の夢 – prologue – さびしがりの月のうさぎさん。 月が満ちるたび野兎とお話しするのを 楽しみにしていました。 ある日、野兎は思いました。 どうすれば 月のうさぎさんと ずっといられるでしょう? お日さまを、 食べてしまおうか? そうしたら みんな木の実が食べられ…
水の夢 – 8 – 瑞貴との関係は、当時大学生だった兄、俊也が家に連れてきたのが始まりだった。 その頃の俊樹は小学五年生という思春期に入りかけていた時期で、彼は時代遅れの大きな黒縁の眼鏡をかけたり、外見にいっさい気を遣っていないように見える俊也のことが大嫌いだった。 そ…
出会った夏、失った冬。再会した春、今度の夏はーー(いっそのこと、殺して欲しかった。)
- 夢見鳥 – prologue –
凍りついた心を、あなたのキスで溶かして欲しい。(そして籠の鳥は、空へと孵る。)
- その夢の果てに – prologue –